NRI 未来創発
 
野村総合研究所
TOP サイトマップ English
 
この人にインタビュー
NRIグループの研究成果を発信します
(2007年5月掲載)
上級研究員 古明地 正俊プロフィール
高まる企業のIT活用戦略の重要性と「ITロードマップ」

back 1 2 3

古明地 正俊
‐“ITロードマップの作成作業”には、数多くの困難が伴うと思われます。今まで取り組んでこられた“ITロードマップの作成作業”の中で一番苦労されたところは何ですか、またそれをどのように乗り越えたか、教えてください。
調査を開始してレポートとして作り上げる調査活動の難易度は中位だと感じています。一番難しいのは調査テーマを選定するところです。限られたリソースの下で適切なテーマを調査するということはやはり難しい。

結局、スタート時点でのテーマ選定の良し悪しが調査のミッションの成否に直結してきますので、お客様のニーズをきちんと踏まえて、調査する対象技術を発掘するということが一番難しい部分だと思います。情報の受け手としては、広く社会一般と顧客企業、そして社内などを想定していますが、受け手によって求める技術も、技術レベルも違っています。5年後に花開く技術の発掘を期待する人もいれば、明日使える技術の話を聞きたいという人もいます。

あと、調査活動の部分について、難易度は中位ですが、そこには心がけなければならない重要な点があります。ユーザーの役に立つアウトプットを出さなくてはいけないことです。現実的にはその点が難しい所です。例えばエンドユーザー向けのレポートであれば、「どのような技術を使って、どのようなサービスが出来るか、その技術によってどんなメリットを受けられるか」ということを明確にする必要があります。

‐2010年までにどのようなIT(情報技術)が実現するか、主なものについて、技術進化の視点から、ご紹介ください。
視点としては2つあって、1つは使う人の立場から見てどのような違いがあるかという点。もう1つは、作り手側から見た時に、作り方がどのように変化していくか、という視点だと思います。

<大きく変化する顧客との接点とチャネル>
使う側からの情報システムは、例えば、バックオフィスの勘定系の顧客設定システムなどは、これまでのものとは異なってくると思います。先ほど「数の増大」などについて話しましたが、ITの端末は種類も数も増えていますので、顧客との接点やチャネルが非常に大きく変わります。

以前は、電話による音声情報の収集で終わっていたものが、今はPCや携帯電話による文字情報の収集まで行えます。セカンドライフログ、あるいはブログやSNSから情報を取得するという方法もあります。また、RFID(電子タグ)のように、物に関する正確な情報がリアルタイムでどんどん取れるようになっています。様々な情報をいかに分析して、どのようなアクションを起こすかという所が、情報システムでこれから大きく違ってくると思っています。バッチ型のシステムよりリアルタイム型のシステムが、より多く使われてくるようになると思います。

一方、物の作り方という観点では、SOA(サービス指向アーキテクチャー)という、サービスを組み合わせて新しいアプリケーションを構築していく流れが続くと思います。米国ではある程度行われていますが、実は日本ではまだ普及していません。しかし、今後はSOAに基づく開発が増えていくと思っています。

<米国企業で進むSaaSのサービス>
それを後押しする材料としては、例えば、SaaS(Software as a service)があります。SaaSというのは従来パッケージソフトなどで提供していた機能をネットワーク経由のサービスとしてお客様に対して提供するもので、CRM(Customer Relationship Management)の機能を提供しているSalesforceなどの企業があります。

このサービスは、米国の多くの企業で使われています。SaaSの考え方は従来からあるASP(Application Service Provider:業務用アプリケーションなどをインターネットを通じて顧客企業に提供するサービス)と似ていますが、ユーザー・カスタマイズができることや、公開されているアプリケーションインターフェイスと組み合わせて、業務系のシステムなどとも連動させることが可能である点が従来のASPと異なっています。

SaaSでは、インターフェイスが公開されているため、ユーザー自身が様々なソフトウェアを部品として使って、新たなアプリケーションを作って行くことができるようになっています。

このように、いろいろな部品を組み合わせてかなりのことが出来るようになりますが、本当に他社と差別化をはかれる重要な部分は、自分達のオリジナルで作っていくことを是非実行すべきです。それと同時に、その投資を効率的に行い、システム導入までの時間短縮を実現するといったメリットを享受できるようなシステム構築の方法を、とっていく必要があると思います。

‐今後、“ITロードマップ調査”の中で予測された新技術が実現した場合、それらの技術が普及し、企業内で活用されるようになるために、どんな課題を解決しなければならないでしょうか?
情報系のシステムで、分析系のシステムとか意思決定支援を行うようなITが色々出てくると思いますが、そのようなシステムというのは、ITを導入すれば直ぐに効果が出てくるような物ではなくて、分析を行う専任のアナリスト部隊の育成であるとか、組織の中に分散している情報を一元管理して扱える仕組みをきちんと作って使っていかなければ機能しません。

BI(ビジネス・インテリジェンス)の話で、オムツとビールを隣に置くとビールが良く売れるという話(赤ちゃんがいる父親がたのまれたオムツを買いに行った時に、ついでにビールを買うことが多いと言われている)がよく引き合いに出されますが、そのような分析を行うための専門組織を作り、人材をきちんと育成して行くことが、今後、IT技術発展の方向性や大きな変化をつかめるしっかりした分析力を企業内に作っていくための、非常に重要な作業だと思います。

米国では、分析力を強化して他社との差別化をはかる企業を、アナリティックコンペティター(分析力を差別化する企業)と呼んでいます。先ほどの例で言えば、インターネット書籍販売のアマゾンのような企業は、まさに分析力で差別化を図る代表的な企業です。

<“産消逆転”で課題となるITで情報武装する消費者への対応>

「産消逆転」という言葉は、消費者の方が供給側である企業より優れたITを使い、情報武装が進んでいることを言い表しています。消費者は携帯電話の様々な機能を使って、ブログやSNSで情報収集し、賢い購買行動をとろうとしています。一方企業側では、セキュリティ等の問題があり、携帯のメールやネットを使った社内外とのコミュニケーションにも色々と制約があります。また、一部企業では企業内ブログサイトを作って情報共有しようという動きが出てきましたが、消費者から随分遅れてやっと最近という状況です。ネットワークでも、家庭では光回線を使い、100メガバイトの大容量を1人で使っている家もあると思いますが、企業ではまだ本店と支店の間は、電話回線を使うISDNで、帯域も128kbps、というようなことがよくあります。

これらの新しい技術に対する企業側の対応については、セキュリティ上の問題などがあるので、一概に企業側が遅れていると決めつけることはできませんが、技術的に解決できることは見極めるべきだと思います。また、ブログなどのツールも何の指針もないまま使わせると問題が起きる可能性があります。ガイドラインを作るとともに社員教育などを通じてきちんと守らせることをすべきでしょう。

新技術に対する取り組み方について、ある程度検討しておかないと、企業間で差がついてくる可能性があります。そういう意味で、消費者に使われている技術をどのように企業内に取り入れ使っていくかということが、長い目で見て、非常に大きい課題だと思います。技術面でのサポートは、ベンダーの方で考えるべき課題ですが、利用者側でも、先んじて使うという位のことを考えていかなければならないと思います。

技術開発や、システム開発、企業のカルチャー作りなどは、いずれもどれだけやれば十分だという話ではなく、同時並行的にバランスをとって、自社に合った形で入れていかなくてはならないと思います。逆に、使えない技術もあるということを知り、そういった技術を整理していくことも今後の課題だと思います。

back 1 2 3

インタビュー記事一覧
page top