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この人にインタビュー
NRIグループの研究成果を発信します
(2007年5月掲載)
上級研究員 古明地 正俊 プロフィール
高まる企業のIT活用戦略の重要性と「ITロードマップ」
『産消逆転』とは、消費者の方が供給側の企業より優れたITを使い、情報武装が進んでいる状態を言い表します。消費者は携帯電話の様々な機能を使って、ブログやSNSで情報収集し、賢い購買行動をとろうとしています。

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古明地 正俊
「IT(情報技術)は、ネットワーク技術の進化とともに、企業や個人の生活をはじめ社会の隅々にまで浸透しつつあります。このようなITの重要性に鑑みて、NRIではITの最新動向を継続的に調査し、その成果の一端を、2005年12月に『2010年のITロードマップ』として、また2007年1月に、その続編として、『ITロードマップ 2007年版』を出版して、来るべき2010年のビジネスや社会に広く普及し様々な影響を及ぼすであろうITの動向を紹介しています。古明地さんは、これまでITロードマップの調査を継続的に実施し、これらの図書の重要部分の執筆にも関係してこられました。そこで、“ITロードマップとはどんなものか”、“ITの現状と予想される進化の動向”、“ITロードマップの果たす役割”などについて、お聞きしたいと思います。」

‐ロードマップは、“道路地図”あるいは“発展の道筋・方向をわかりやすく地図のように表したもの”などと訳されますが、古明地さんが取り組んでいる“ITロードマップ”というのは、具体的にはどのようなものでしょうか、何か具体例をあげてご説明ください。
ITロードマップの作成は、NRIにおけるITに関するナビゲーション活動の一環として行っています。ITナビゲーション活動の目的は大きく2つあります。1つは、次から次へ出現する新技術にはどのようなものがあり、それによってどのような新サービスが生まれるのか、それは企業活動や生活者にどのような影響を与えるのかなどをロードマップの形で描いて、お客様である企業の方々に使って戴きたいということです。もう1つは、NRI自身の技術への取り組みを明確化するためです。

ITはPCや携帯電話をはじめ、我々の日常生活に深く浸透してきています。例えば携帯電話はどんどん進化し続け、おサイフケータイのように携帯電話でありながら、現金とクレジットカードの両方の機能を併せ持つようになるなど、今やITシステムは我々の生活とは切っても切れない関係になってきています。

企業にとっても、IT戦略の重要性が益々高まっています。ここ10年ほどの間に、PCなどプロセッサの性能が向上し、ネットワークのブロードバンド化、あるいはユビキタス化が、非常に速いスピードで進展しています。また、新しい技術が次から次に出てきているので、それらの新技術をいかにして、きちんと使いこなしていくかということや、どのようなIT活用戦略をとるかが他社との差別化戦略と成り得る状況になっています。今後の5年から10年では、このような状況は変わらないでしょう。そういった長期的視点に立って、技術と企業の間を仲介する立場でお役に立てることがあればと考えて、ITロードマップの作成に取り組んでいるわけです。

ITロードマップは年表形式になっていて、5年ほどの期間に、どのような新技術や新サービスが実現する可能性があるかを、技術分野別に示しています。実際の作業ではこの年表を作ることに加えて、技術の特質、技術を提供しているベンダー側の動向、ユーザー側の新サービスの事例などの調査も合わせて行います。

ITロードマップの中で取り上げる技術は、チームメンバーの研究員がそれぞれの専門領域別に選んだ多くの候補技術の中から、生活者や顧客企業の視点というフィルターをかけつつ、ディスカッションしながら選んだものです。

こうして選んだ技術について、例えば、今後5年から10年の間に、その技術が技術自体としてどこまで成熟していくのか、機能的にどういう部分が深まるのか、それをどういう企業が、どのタイミングでどのくらい使っていくのか、そして、それを使うことによってエンドユーザー向けに、どのような新サービスが実現してくるかということを描き出します。さらに、それぞれの技術について、年ごとの変化を検討し、最終的に1つのマップの形に完成させて行くのです。

‐著書『2010年のITロードマップ』の中で、”ネットワーク技術の進化をベースとしてITは社会のあらゆるところに浸透していく。このような環境下で構築される2010年以降の情報システムは、大きな3つの特徴を持つ”と述べておられます。3つの特徴とはどんなものであるか、お話ください。
2010年以降の情報システムは、(1)ネットワークに繋がる端末の「数の増大」、(2)「実世界のモデル」との連携、(3)「知恵を持ったIT」という3つの特徴を持つと考えています。

ネットワークに繋がる端末というと、これまでは基本的にサーバーやPCが主体でしたが、最近は種類が大変増えてきました。携帯電話は非常によく使われていますし、情報家電やRFID(ICタグ)などのセンサーが次々とネットワークに繋がってきました。端末の種類や数が増えると、まずデバイスが増え、ネットワークに繋がってユビキタスネットワークがますます広がっていきます。ネットワークの体系の空間的広がりのようなイメージですが、これが「数の増大」です。

こうした端末とネットワークの進化によって、様々な場所や物や人の属性情報がより精密に取れるようになってきます。その結果、実世界で起きている現象に対するモデル化がより高度化、リアルタイム化していくだろうと思います。これが「実世界のモデル化、システム化」と言っているところです。

例えば、RFIDの数の増大が起き、様々な物に付けられていくと、物が今どこにどれだけあるかということを正確に、かつ、リアルタイムで知ることができるようになります。1つ1つの商品の管理が可能になり、商品がどのタイミングで売れたかということも分かるので、欠品によって販売ロスが発生してしまうことは非常に少なくなります。受発注のシステムをリアルタイム化することで、収益を上げられるということが、すでに明らかになってきています。
同じように、人に関する情報もより精密に取れるようになりました。例えば、インターネット上で書籍購入のできるアマゾンのサイトでは、個人がどういうものを購入したかという過去の購入履歴が細かく取れます。履歴をモニタリングしていくことで、こういう本を買った人は別のジャンルのこういう商品も見ているという関連性が分りますので、適切なアドバイス、あるいはお客様が求めるような商品の推奨をすることが可能になりました。そのように、上手にクロスセルをして販売を増大させるというような使い方が、よくされています。これは企業側にとってのメリットだけでなく、ユーザーにとってもメリットがあり、そのサイトに行くと的確なおススメ情報をもらえるので、また行ってみようということになります。そうして購買行動に繋がっていくわけです。これもある種、人々の購買に関するモデル化を行っていると捉えることができます。

先端的な研究ということでは、産総研(独立行政法人産業技術総合研究所)のデジタルヒューマンプロジェクトがあります。幼児にたくさんのセンサーを付けて、部屋の中での動きを高精度カメラで観察して、子供がどういうおもちゃに興味を示し、その時どういう行動をとるのかなどを継続的にモニタリングします。そして集めたデータから、こういう場所に椅子を置くと上に登って落ちやすいなど、子供の行動をシミュレーションします。このように行動をモデル化することによって、その属性を持つ物の動きや人の行動パターンなどがより精密に判ってくるわけです。

このような分析に加え、企業活動ではどういうアクションを起こした場合に収益が上がるかという点については、人が考えてビジネスモデルとして取り込まなければなりません。例えば、営業マンが経験や知識からこうすると売上げが伸びると判断して発注する作業がそうです。それに対して、情報システムに情報をインプットすると、人が介在することなくシステムが自動的に状況を見ながら判断をして動いて行くというのが、「知恵を持ったIT」です。

また、情報システムの運用技術のオートノミックコンピューティング(自律運用技術)は、そのシステムに障害が起きた時に、自動的に障害箇所を見つけだして、システム自体が自動的に処理を行うというものです。株式売買の世界には、オートトレードという自動的に株式の受発注を行うシステムがあります。このように、人手を介さないで、自動的にシステムが分析、判断を行って、適切な処理を行っていくものは、今後次第に増えていくと思います。もちろん、対象によってその内容がかなり違いますので、何でもかんでも今すぐ出来るというわけではありません。

この情報システムの3つの特徴は、それらの特徴が同時に存在しているというのではなく、時間の流れの中で、最初に「数の増大」が起こり、その数の増大が、次の「情報システムのモデル化」を引き起こして、その結果、最後の段階として「知恵を持ったIT」が現れるという流れです。時間の経過は対象物によってだいぶ異なり、先ほどのアマゾンのオファリングのような知恵を持ったITであればすでに実現していますが、オートノミックコンピューティングのようなより複雑な「知恵を持ったIT」が実現するのは、2010年以降になるでしょう。

「数の増大」した状態というのは、すでに普及度がかなり高くなっている状態だと思います。様々な事象からの情報を吸い上げるというフェーズがこれから起こってくるでしょう。それと並行して2000年代後半から、より精密なモデル化が色々行なわれると思っています。「知恵を持ったIT」に関しては、自動的に何でもやってくれると思えるような本当に賢い状態になるのがいつ頃のことか、正確に予測するのは難しいですが、2010年以降2015年くらいまでには、様々な分野で使われるようになると思います。

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