2011年11月18日
株式会社野村総合研究所
株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:嶋本 正、以下「NRI」)は、2016年度までのスマートデバイスとソーシャルメディアの融合による顧客接点(チャネル)の進化と、そのインパクトを予測した「ITロードマップ」※1をとりまとめました。スマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスの市場が急拡大しており、今後は、スマートデバイスがもたらす様々なセンサーデータが、ソーシャルネットワーク上で共有・蓄積される時代となっていきます。スマートデバイスは、ソーシャルネットワークにつながった生活者をニーズに沿った最適なサービスに誘導・案内する“コンシェルジュ”のような存在として活用されていくと予測しています。
この数年、スマートフォンの利用者が急拡大しており、現在では移動体通信事業者各社から販売される携帯電話端末の種類の半数以上を、スマートフォンが占めています。スマートフォンに加え、iPad(アイパッド)やアンドロイドタブレットなど、タブレット端末の市場も拡大しています。iPhone(アイフォーン)やiPadのように、優れたユーザーインターフェースを有する端末が世界中で提供され、それらで利用可能なアプリケーションが多数提供された結果、2015年頃にはスマートデバイスは普及期に移行します。
スマートデバイスは、タッチセンサーや加速度センサー、カメラやGPS(全地球測位システム)など、各種のセンサーを搭載しています。従来の携帯電話では、必ずしもすべての開発者がセンサー機能を用いたアプリケーションを開発できるわけではありませんでした。それに対し、スマートデバイスでは、各種センサーなどのAPI※2が一般の開発者にも公開され、企業はスマートデバイスのセンサーで得られた位置情報等のデータを用いたさまざまなサービスを提供しやすくなりました。
時を同じくして普及が進展したソーシャルメディア※3は、スマートデバイスのセンサー機能と組み合わせられることで発展した、典型的なサービスの分野です。タッチセンサーによる使いやすさの向上は、ソーシャルメディア上に蓄積される大量のコメントや写真などの閲覧を容易にし、GPSセンサーは位置情報の入力を省力化します。スマートデバイスのセンサー機能や、そこから得られたデータと、ソーシャルメディアとを組み合わせることによって、生活者の関心や行動を表すデータがソーシャルネットワークを介して交換・蓄積される傾向が、今後はより拡大していくでしょう。
企業はスマートデバイスのデータを活用することで、より多くの生活者に対して、ソーシャルネットワークを介して多様な情報提供や顧客サポートを行ったり、ソーシャルネットワーク上に反映された生活者の関心や行動の分析(ソーシャルインテリジェンス)と自社内の他の顧客関連データ(POSデータや顧客の購買履歴、コンタクトセンタの応対履歴など)とを組み合わせた分析を行ったりすることで、顧客サービスの付加価値をさらに高めることができます。
NRIでは、企業の顧客接点(チャネル)におけるスマートデバイスとソーシャルメディアの融合と活用が、具体的には、以下のように展開していくと予想しています。
先進的な企業では、スマートデバイスを介して生活者が発信する情報をマーケティングや販売促進に活用し始めています。欧米の小売業では、スマートフォンで把握した、生活者一人ひとりの位置情報を蓄積し、ユーザー同士が共有する位置情報サービス(LBS :Location Based Service)の利用が徐々に始まっています。スターバックスやマクドナルドが利用している「Foursquare」、ベストバイやターゲットが利用している「Shopkick」などが、位置情報サービスの代表例です。
生活者はスマートデバイスのGPSデータを、位置情報サービスを介してソーシャルネットワーク上で共有することにより、「今ここにいる」という情報を友人や知人同士で共有し始めています。流通業や外食産業の店舗が、生活者の位置情報の共有の輪に加わることで、近隣にいる生活者を店舗に誘導したり、来店回数に応じてクーポン等を提供したりすることで、販売促進や顧客ロイヤリティの向上につなげる、といった事が欧米では盛んになりつつあります。さらには、スマートデバイスが持つ精密な位置情報把握機能を活かして、店舗内での場所に応じた商品紹介や、店舗内誘導、導線解析などを行うことも可能になりつつあります。
企業は、これまでのように企業から生活者に対して、単に一方通行で情報を配信するだけでなく、スマートデバイスが持つセンサー機能を活かして生活者の置かれた状況等を把握し、最適なフィードバックを行う“センス&レスポンス”が実現できるようになります。
端末のサービスを支える高速通信仕様であるLTE(Long Term Evolution)のように、ネットワークのインフラが整備されるようになると、スマートデバイスを介して生活者が受発信できるデータは、量的にも質的にも拡大します。さらに、生活者がスマートデバイスとソーシャルネットワークを介してつながる対象は、様々な機器やサービスに拡大していくと考えられます。
例えば、国内大手自動車会社がサービス開始予定のソーシャルネットワークサービスでは、自動車のオーナー同士やオーナーとディーラーがソーシャルネットワークを介して交流する機能に加えて、自動車に備わったセンサーがバッテリー残量など各種の警告やメッセージを「クルマのつぶやき」としてソーシャルネットワーク上に発信し、オーナーや自動車ディーラーに伝えることが計画されています。
クルマ以外にも、ネットワークに接続された家電や街頭のデジタルサイネージ(電子看板)、バスや鉄道などの都市インフラといったモノ同士が情報を受発信するM2M(マシン・トゥ・マシン)の時代が到来すれば、より大量のデータがあふれかえることになり、企業はそれらのデータをどのように処理・分析するかという“ビッグデータ”への対応を検討することが必要になります。
ヒトとモノとがソーシャルネットワークを介してつながるサービスは、当初は単独企業と生活者とをつなぐサービスとして開始され、さらには複数の企業が生活者を取り巻くソーシャルネットワークにつながり、様々なサービスを提供する時代が来るものと予想されます。ソーシャルネットワークを流れる生活者の様々なデータからくみ取れるニーズに対して、単独の企業ではすべて応えることができないため、ある一企業が運営するソーシャルネットワークに、別のサービスを提供するパートナー企業が参加して、生活者の関心やセンサーデータを共有し、より広範な生活者のニーズに対応する付加サービスを提供するといった方向への進化が予想されます。
ただし、活用できる生活者のセンサーデータが増え、一方で関与するサービス提供者が増えれば、生活者のどのようなニーズを感知し、誰がどのようなサービスを薦めるべきかという判断は難しくなります。過剰なレコメンデーション※4は逆に生活者の不満につながり、また、情報の氾濫を生み出すためです。したがって、この時期にはソーシャルネットワークの運営者や参加企業にとっては、個々の生活者がどのような状況下で、どのようなニーズを抱いているか、その状況に対して最適な提案を誰がすべきか、といった点について、より高度な配慮や最適化が必要となります。また、生活者が所持をするスマートデバイス側でも、デバイスの利用者が求める、より適切な情報を取捨選択して提示する“コンシェルジュ”としての知的な機能が求められるようになっていきます。
なお、スマートデバイスを含む、他の情報技術に関するITロードマップに関しては、東洋経済新報社より12月(予定)に発売される単行本『ITロードマップ2012年版〜情報通信技術は5年後こう変わる!〜』に掲載される予定です。